日本に住むハーフさんやミックスさんの中には,教師を目指されている方もいらっしゃると思います。ですが実際のところ,「日本語母語話者の日本人」以外のバックグラウンドを持つ教員数は依然としてごくわずかで,教員志望のハーフさんのロールモデルがほぼないというのが現状です。
本記事が,ハーフさんが「教職」というキャリアを選択肢に加える一助となりましたらとても嬉しいです。

教員になりたいハーフさん向けのパスファインダーとなっております♪
教職において国籍や人種で区別されることはない!
文科省が公表している『学制百二十年史』中の「日本国籍を有しない者の教員採用」,いわゆる「教員免許の国籍事項」には,次のように明記されています。
1) 日本国籍を有しない者にも公立学校教員採用選考試験の受験を認める。
2)選考に合格した者については任用の期限を附さない常勤講師として任用するための措置を講ずるよう各教育委員会を指導する。
文部科学省ウェブサイト「学制百二十年史」
すなわち法律上,「ハーフ」だろうと「ミックス」だろうと「在日」だろうと,国籍上の理由によって教職そのものへの門戸が閉ざされることは絶対にありません。
注意点も!正規の教諭になるには「日本国籍」が必要
「教諭」とは,私たちがイメージする「学校の先生」のポジションです。デリケートな話になりますが,公立学校で正規の「教諭」に任用されるためには「日本国籍」を所有していなければなりません。
先ほど見たように,公立学校教員採用選考試験(教採)の受験資格に関しては,日本国籍の有無は問いません。しかし注意が必要なのは,無事に合格した後,つまり「じゃあ具体的にどの雇用形態で任用されるの?」という点についてです。この点について,平成3年,文部省は「任用の期限を附さない常勤講師として任用する」と制定し,文科省へと編制以降もこの文言は現存しています。
日本人の「教諭」との決定的な違いは,管理職への昇進・昇給ができないということです。すなわち,教員としてどんなに経験や知見を積んだとしても,それらが具体的なキャリアパスとして活かされることは限りなく困難だと言い換えられます。日本人教諭の場合でも「教諭→指導教諭→主幹教諭」の順でキャリアステップしていきますが,常勤講師だとそれがなく,実質的には「教諭」の待遇のままです。
さらに文科省は,「日本国籍を有しない者」の常勤講師への任命について,最終的な決定権は自治体に委ねるとしています。国として「外国人教員」の身分を保障している訳ではないことは,大きな課題の一つでもあります。
ただし私学の場合,公立に準ずることが多いものの,受験資格や採用規準の裁量は各々の学校に任されています。そのため私学を受験する際には,国籍事項について確認し,無理のない範囲で自身の生育歴を簡単に共有した方が良いかと思います。
以上を踏まえ,私から教職を目指すハーフさんに向けて,次の2点をアドバイスいたします。
①日本国籍を放棄しないこと。
②自分が受験したい自治体のHPをよく調べ,自分がどんなキャリアパスを歩みたいか具体化しておくこと。また「教諭」という正規雇用に縛られすぎず,教育関係のさまざまな職業や働き方を調べてみましょう!そうすることで,より自由で柔軟な発想が生まれます。
などなど,人の数だけキャリアのかけ合わせ方があります。

「教諭(常勤講師)×フリーランス」は,敷居の高くない働き方になっていくと思いますよ♪
「ハーフで国語を教えるのってどんな気持ちですか?」
では私自身,ハーフ教員として色眼鏡で見られることが全く無いかというと,そうではありません。ありがたいことに,大部分の職場の先生方はすんなりと受け入れてくださるか,好意的な反応を示してくださるかのどちらかなのですが,それでも「名前を見た時英語の先生かと思った」「まさか国語とは思わなかった」といったお言葉を頂くことも一定数あります。
中でも個人的に,「そこまでストレートに聞いちゃうの〜!?」と驚いた出来事があります。それは教育実習生の方とお話ししていた時のことです。
その実習生の方は,私の授業を参観なさった後で質問や感想を共有してくださっていたのですが,ふと「ぶろっさむ先生は日本以外のバックグラウンドをお持ちなんですか?」と尋ねられたので,「そうです。一応カナダとのハーフで…」と答えました。すると
「そうした境遇にありながら国語を教えるのって,どのようなお気持ちでいらっしゃるんですか?」
と問いかけられました。国語教育は究極的に言えば「国語という教科は誰のためのものか」というテーマとの闘いの歴史なので,いずれ私も向き合わねばならないと覚悟はしていたものの,「やっぱり国語=日本人のものっていう先入観はまだまだ拭えていないんだなぁ」と痛感させられました。
幸い,生徒たちも私のフルネームを廊下で大声で連呼することはあるものの(笑),「ハーフの先生が国語を教えるのって何か変」などと言われたことは一度もありません。むしろ「え,先生英語も喋れるの!?すげぇ!」とお褒めに与ることもしばしばあるので,彼らの素直さに感謝していますね。
まとめ:ハーフさんだからこそ教職を志してほしい。
ここまで,日本の外国籍教諭の権利上の課題や私の実体験にふれつつ,「ハーフさんが教職を目指すことは可能である!!」ことを強調してきました。注意事項として,正規の教諭として働きたい場合は日本国籍を放棄しないこと,教育に携わることができる職種・働き方は教諭以外にもたくさんあることも挙げさせて頂きました。
私は,現在の教育現場に足りないのは「教員の言語・文化的多様性」であり,それをカバーして教員集団の質を高めるためにも,言語や文化の観点から多様な経験を持つ方に教職に入ってきてほしいと切実に願っています。これだけ外国人児童生徒への対応の必要性が称揚され,多文化的な学校づくりのモデルケースがある中で,そのリーダーシップをとるべき存在である教員の多様性を認めないでいてどう実現するんだと言いたいです。
国語科を例にとっても,2言語以上を本腰を入れて学んだ経験のある先生は非常に少数です。「日本語を教える教科なんだから日本語さえできれば不足はない」という凝り固まった思考回路から,言語や文化に対する感受性が養われるはずがありません。アメリカのLanguage Arts(母語として学ぶ英語科, 日本の国語科に相当)の先生にお話を伺ったことがありますが,その先生のクラスで学ぶ生徒たちの母語の種類は,実に40にのぼるそうです。母語を扱う教員側が,言語や言葉に関するあらゆる学びを怠らない努力の大切さは,多文化に身を置いてきた方にとっては身に沁みて実感できるところかと思います。
ハーフ/ミックスさんの教員は,教員間の学びを促進させるキーパーソンとなれるようなポテンシャルがあります。ぜひ,胸を張って教職の門を叩いてみてください!
参考文献
全国在日外国人教育研究所「外国人教員差別撤廃」2009/2/28
NEWS PICKS「「ルーツを尊重」校則について、“ハーフ”の教員が考える。」2023/3/28
NIKKEIリスキリング「熱血教師は日系ブラジル人 その意外な志望動機 愛知の移民先進地を訪ねて(1)」2013/4/2
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